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2020-2-1 新型コロナウイルス対応に関する労務Q&A

M&P Legal Note 2020 No.2-1

新型コロナウイルス対応に関する労務Q&A

2020年3月10日
松田綜合法律事務所
人事労務チーム

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1 はじめに

現在、各企業において新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、短時間勤務又は在宅勤務の導入、事業場自体の閉鎖など、各種の対応が行われています。これに伴い企業の方から、このようなケースにおける労務管理(特に、休業手当の支払の要否)について、多くの相談が当事務所に寄せられています。

そこで、本稿では、新型コロナウイルス対応に伴い生じる労務管理に関し、QA方式で解説を致しますので、ご参考にしていただければ幸いです。

2 Q&A

(1)Q1:新型コロナウイルス罹患を防ぐため、労働者に休業を命じようと思います。休業期間中の賃金の支払は必要でしょうか。

現時点では、新型コロナウイルスに罹患していない労働者を休業させるということは、本来ならば就労可能であるにもかかわらず、就労を拒否するということですので、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」(休業手当として平均賃金の6割以上の支払義務あり)、民法536条2項「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」(賃金満額の支払義務あり)に該当するのではないかということが問題になります。

文言上は、重複しているかのように見える二種類の条文ですが、労働基準法26条の使用者有責の場合の有責は、6割補償で済ませることとの相関でかなり広く解されており、使用者が管理している範囲内で起きたことであれば、本当の意味で使用者に責任があるわけではなくても該当すると理解されています。例えば、加工を行う製造業で、原料供給メーカーの落ち度で原料が届かなかったため、やることがなく労働者が働けなかったという場合も労働基準法26条の使用者有責に該当するとされています(昭和23・6・11 基収1998号)。

これに対して、民法536条2項の有責というのは、やや狭く、故意、過失又は信義則上これらに準ずる事由がある場合とされており、本当の意味での落ち度がある場合には、100%の補償をしなさいという内容となります。

現時点(本稿のリリース時点)における新型コロナウイルスに関する科学的知見及び蔓延状況を鑑みると、適切な予防措置をとれば感染を避けることは可能のようですので、この時点において労働者を休業させることは、事業が継続可能であるにもかかわらず使用者の自主的な判断で休業するという評価になる可能性があります。すると、民法536条2項の使用者有責に該当する可能性があります。

一方で未知の部分も多く、感染力が強いことをうかがわせる情報も散見されることから、不特定多数の者との接触が想定される事業(特に、接客業など)を中心に労働者に対する安全配慮義務として、又は感染拡大の防止のため、休業の判断をすることは合理的と考えられ、民法536条2項の使用者有責とまではいえないものと思われます。このような場合でも、上記の通り、労働基準法26条の有責は広いことから、これに該当する可能性はあると考えられます。

以上の通りですので、今後の状況等により流動的ではあり、また、使用者の事業内容にもよりますが、新型コロナウイルス対応として、使用者が休業を選択した場合には、少なくとも労働基準法26条の休業手当の支払は必要であると考えられます。

なお、民法536条2項は任意規定であるため、就業規則等で休業の賃金補償について民法536条2項の適用を排除して労働基準法26条の休業手当を支給すると定めている場合には、使用者が義務を負うのはその限りになります。もっとも、当該規定を有していたとしても、今回の事態に適用するかについては、使用者に裁量がありますので、今回が非常事態であるということを踏まえ、労働者と十分な話し合いをすべきであると思います。

(2)Q2:新型コロナウイルス対応で短時間勤務や在宅勤務を実施したいと思います。就業規則の改定は必要でしょうか。短時間勤務にする場合、給与を按分して支払ってもよいでしょうか。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、時差通勤を目的として短時間勤務とする対応や、在宅勤務を奨励するといった対応が考えられます。

従前から就業規則において在宅勤務や短時間勤務を想定した定めがあれば、これに従うことになりますが、そのような定めがない場合は、短時間勤務や在宅勤務を命じることの可否が問題となります。

この点、就業規則に定めがあることが望ましいものではありますが、新型コロナウイルス対応の目的で臨時的な措置として行うのであれば、労働者との合意の下、就業規則に定めがなくとも、短時間勤務や在宅勤務を実施することは可能であると考えられます。

ただし、まず在宅勤務については、自宅等での就業であっても、労働基準法や労働安全衛生法の適用はありますので、使用者の労働時間把握義務や健康確保措置に関する義務等は職場に出勤して働くときと同様に存在することに注意する必要があります(これらの義務を十全に果たすために、本来的には就業規則の整備は欠かせません。)。また、情報セキュリティの観点や在宅勤務中の業務に対する人事評価の観点等からも、実際上一定のルールは必要です。

新型コロナウイルス対応をきっかけに、在宅勤務が拡充していく流れが想定されることからも、今後、就業規則の改定に取り組んでいくことは検討に値します。

次に、新型コロナウイルス対策として短時間勤務にする場合、給与をどのように取り扱うかが問題となります。

Q1でご説明した通り、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業(短時間勤務は部分的休業に当たります)の場合には、使用者は、休業期間中の手当として平均賃金の6割以上を支払わなければならないとされています。この休業手当は、1日の一部を休業した場合には、その日について全体として平均賃金の6割以上を支払うことが必要でありますので(昭和27・8・7 基収第3445号)、例えば、通常8時間勤務のところを7時間勤務にした場合に、給与を8分の7(=87.5%)とすることは、同条に違反するものではありません。

もっとも、短時間勤務は、通勤ラッシュの時間帯を避けることで労働者の感染リスクをできる限り軽減しようとすることを目的に予防的措置として行うものであり、このような部分的休業が、法令上要求されているということでも、事業の性質上要求されているというものではありません。そのため、このような短時間勤務については、使用者の自主的判断によるものとして、民法536条2項の「責めに帰すべき事由」に該当し、時間按分の賃金支払いでは足りず、賃金全額の支払いが必要であるという結論になるものと思われます。

(3)Q3:新型コロナウイルス対応として、学校が臨時休校となったために、子どもの面倒を看る必要が生じたために出勤できない労働者に対しては、休業手当を支払う必要があるでしょうか。

Q1でご説明した通り、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」には、使用者は休業手当を支払う必要があります(労働基準法26条)。裏を返せば、「使用者の責に帰すべき事由」によらない休業の場合には、休業手当を支払う必要はありません。

政府からの要請を受けて学校が臨時休校となり、子どもの面倒を看る必要が生じたために労働者が出勤することができない場合、これは労働者の欠勤であり、「使用者の責に帰すべき事由」によるものではないため、法律上は、休業手当を支払う必要はありません。

もっとも、新型コロナウイルス対応は社会全体として感染拡大防止に向けた対応に取り組むべきものではありますので、これを単なる欠勤として扱ってしまうことは、必ずしも適切とはいえません。臨時休校を政府が要請するという異例事態ですので、このようなやむにやまれず出勤ができない労働者に対しては、労働基準法上の年次有給休暇とは別の、特別の有給休暇を付与することも検討に値します。

なお、行政も、小学校等が臨時休校となったことで出勤できない労働者に特別の有給休暇を取得させた事業主に対する助成金制度(日額上限8330円)を創設していますので、こちらの制度を利用することも考えられます。当該助成金制度の詳細については厚労省のHP(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09869.html)をご参照いただければと思います。

今後も行政が新たな支援策を打ち出す可能性がありますので、引き続き行政の動向に注視していく必要があります。

(4)Q4:新型コロナウイルス対応として、正社員は在宅勤務とし、パート社員は一定期間の休業にしようと思うのですが、この場合、パート社員に対する休業手当の支払いはどのようにしたらよいでしょうか。

所定労働日数や所定労働時間が正社員と比較して短いパート社員についても、当然、労働基準法26条は適用されます。Q1でご説明した通り、新型コロナウイルス対応としての休業については休業手当の支払は必要であるため、パート社員にも休業手当を支払うことになります(上記の通り、民法536条2項に基づく賃金全額の支払が必要なケースもあり得ますが、以下では、労働基準法26条の休業手当を念頭に解説します。)。

労働基準法26条の休業手当の支給対象となる「休業期間」とは、もともとの所定労働日を指し、労働協約、就業規則又は労働協約により休日と定められている日は含まれません(昭和24・3・22 基収第4077号)。

そのため、例えば、3月1日から3月15日までの2週間を休業とする場合、雇用契約で就労日が「週2日」と定められているパート社員に対しては、上記休業期間について4日分の休業手当を支払うことになります。

雇用契約で就労日が「週3日以内」と定められており、就労日はシフトによって特定されているというケースの場合、すでにシフトによって就労日が特定されていれば、休業期間中の就労日数に応じて休業手当を支払えば足ります(例えば、3月中は、3月3日、5日、6日、14日、19日、24日、26日、31日が就労日と特定されていれば、4日分(3日、5日、6日、14日)の休業手当を支払えば足ります。)。

他方、就労日がシフトによって特定されていない状況であれば、雇用契約上は「週3日以内」との定めであり、労働者には就労請求権はないため、特定の週の所定労働日数が0日であっても契約違反にはならないと考えられます。そのため、このような状況であれば、休業期間(上記の例でいうと、3月1日から3月15日)にパート社員の就労日を入れなければ、休業期間中は単なる休日であって就労日ではないため、理論的には、休業手当の支払いは不要と考えることができます。

もっとも、雇用契約上は「週3日以内」と定められていても、過去の実績として、少なくとも週1日は就労をしており、週0日になることがないということであれば、「週3日以内」とは、週1日から週3日をいうものと解釈され、週0日とすることは雇用契約に反すると判断されるリスクもありますので、この点はご留意をいただく必要があります。

(5)Q5:新型コロナウイルス対応として、接客業務のある事業所について休業することとしたため、接客業務に従事していたパート社員に対して、接客のない事務業務を命じることにしました。接客業務に従事する場合には特別手当が支給されることになっているのに対して、事務業務に従事する場合には特別手当は支給されることになっていない場合、特別手当を不支給にしても問題ないでしょうか。

まず、当該パート社員との間の契約内容として、当該パート社員の業務内容が接客業務に限定されていた場合(職種限定の合意がある場合)には、当然には接客業務以外の業務を命じることはできません。以下では、そのような限定がなく、当該パート社員に対して接客業務以外の業務を行うことを命じることができる権限が使用者にあることを前提とします。

接客業務に従事する場合に支給される特別手当は、あくまで接客業務に従事することを理由として支給されるものであり、当該業務に従事していない以上は、これを支給する必要はありません。

そのため、新型コロナウイルス対応として、接客業務ではなく事務業務に従事することとなったパート社員に対しては、接客業務に従事していない以上、特別手当を支給する条件を満たしておらず、これを不支給としても問題はないものと考えます。

なお、上記の点が紛争化するリスクを軽減する観点からは、各手当の支給条件を就業規則等に明記しておき、労働者にその支給条件を十二分に説明しておくことが肝要です。

(6)Q6:イベントの開催箇所の縮小により、勤務地限定のパート社員を、イベントを依然として開催する会場で働いてもらいたいのですが、同意を得られなかった労働者に対してはどのように対応すればよいでしょうか。

雇用契約等において勤務地限定と定められた労働者には、契約上の勤務地での勤務しか命じることはできず、勤務地外での勤務に就いてもらうには労働者の個別の同意が必要です。そのため、契約上の勤務地外への勤務について本人の同意が得られない場合には、これを命じることはできません。

したがって、当該労働者には、勤務地内で行うべき別の業務を命じることができればこれを検討しますが、イベント開催の縮小によって業務が全く無くなってしまう場合には、出勤を免除するという結果にならざるを得ないでしょう。

この場合、出勤を免除したパート社員に対して賃金を支払う必要があるかどうかについては、イベント開催箇所の縮小が、法律や行政上の措置によって強制されたものではなく、使用者自身の判断によるものであれば、少なくとも、労働基準法26に基づく休業手当の支払の必要があるものと考えられます。この場合の休業手当の具体的な支給日数の考え方については、Q4を参考ください。

(7)Q7:中国から帰国してきた労働者がいます。本人には自覚症状は全くないようですが、自宅待機を命じたいと思いますが、可能でしょうか。また、自宅待機を命じた場合の給与の扱いは、どうなりますか。

労働者には、雇用契約に基づく就労請求権は認められませんので、使用者は労働者に対し、業務命令権を根拠に自宅待機を命じることが可能です。自宅待機を命じた場合の賃金の扱いについては、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」といえるか否かが問題になります。

ご質問のケースは、本人に自覚症状はないものの、新型コロナウイルスの感染が拡大している地域にいた労働者に対し、使用者が感染リスクをできる限り小さくするために、安全策として、労働者に自宅待機を命じるものです。あくまで特定地域にいたというだけですので、当然、その労働者が感染をしていない可能性はありますし、自宅待機を命じることが法令や行政によって要求されている状況ではありません。

そのため、このような措置は、感染症予防拡大の潜在的なリスクを重くみた使用者の独自の判断による対応であり、「債権者の責めに帰すべき事由」といえますので、給与を満額支払う必要があるものと考えます。

(8)Q8:新型コロナウイルス対応として派遣先が事業場を閉鎖するとのことで、派遣労働者も自宅待機してほしいといわれました。派遣料はどうなりますか。

新型コロナウイルス対応の一環で、派遣先が自社の事業場を閉鎖する場合、派遣先の労働者の休業手当のみならず、派遣元との間の派遣料の支払いが問題になります。

労働者派遣基本契約書には、派遣先の「責めに帰すべき事由」によって派遣業務を行えない場合には派遣元は派遣先に派遣料金を請求することができる旨の規定が入っていることが多いかと思います。そこで、新型コロナウイルス対応で派遣先が事業場を閉鎖することが、派遣先の「責めに帰すべき事由」に当たるか否かが問題になります。

この点、現時点では、新型コロナウイルス対応での事業場の閉鎖は、法令に基づくものでも、行政からの命令に基づくものでもないため、派遣先は事業を行うことも可能ではあります。

そのため、新型コロナウイルス対応での派遣先の事業場閉鎖は、各事業主の自主的な判断に基づくものであって、派遣先の「責めに帰すべき事由」に該当するものと思います。

したがって、派遣元が派遣料金全額の請求をすることも、理論的には可能です。

ただ、社会全体が新型コロナウイルスの感染拡大防止のために必要な対応を自主的に行っている中で、派遣料金全額の請求を行うことは、派遣先と派遣元の今後の関係にも影響を来しかねませんし、社会の趨勢にも合わない面もあります。

そこで、派遣先と派遣元との間で協議をした上で、派遣料の全額ではなく、一定額を割り引いた支払いをすることとし、新型コロナウイルス対応への相互協力をすることが望ましいと思います。

具体的な落としどころとしては、派遣先が事業場を閉鎖したことで休業を余儀なくされた派遣労働者について、派遣元は、少なくとも休業手当(労働基準法26条)の支払は必要になると思われますので、当該休業手当相当額(派遣労働者の平均賃金の6割)を派遣先が派遣元に支払うことが妥当なラインではないかと思います。

なお、派遣労働者の休業手当支払いの要否は、派遣元を基準に行われますので、特定の派遣先が事業場を閉鎖したとしても、その派遣労働者を他の派遣先で就労させることができたということであれば、派遣元は休業手当を支払う必要はありません。このようなケースであれば、双方の協議で、閉鎖期間中は派遣料金の支払いをなしとすることもあり得るかと思います。

 

<新型コロナウィルスに関するリーガルノート>

<参考>

松田綜合法律事務所の人事労務情報ブログ
https://labor-law.jp/

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