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2020-9-2 テレビ電話機能を利用した定款認証手続きの解説

M&P Legal Note 2020 No.9-2

テレビ電話機能を利用した定款認証手続きの解説

2020年6月26日
松田綜合法律事務所
弁護士 水谷 嘉伸
パラリーガル 井上 真由美

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第1 はじめに

日本において株式会社を設立する場合、設立手続きとして一般的に以下の表に記載するステップを踏むことになります[1]

1. 設立する会社の概要を決定
2. 設立する会社の所在場所に同一商号の会社がないことを確認
3. 会社代表印の発注、発起人の印鑑証明書等必要書類の取得
4. 発起人又は代理人による定款の作成(会社法26条)その他各種書類の準備
5. 本店所在地の管轄法務局の所属公証人による定款認証(会社法30条)
6. 設立時の発行株式に関する事項にかかる発起人全員の同意(定款に定めのない場合)(会社法32条)
7. 発起人による資本金の払込み(原則発起人名義の銀行口座に入金)(会社法34条)
8. 発起人の決定(定款に定めのない場合)
・         本店の具体的な所在場所
・         設立時取締役などの役員の選任(会社法38条)
9. 設立時取締役(・監査役)による設立経過の調査(会社法46条)
10. 設立時取締役による設立時代表取締役の選定(取締役会設置会社の場合)(定款に定めのない場合)(会社法47条)
11. 設立登記申請(本店所在地の管轄法務局)
・   登記申請書、添付書類、(代理人による申請の場合)登記委任状の提出
・   会社代表印を押印した印鑑届書及び会社代表者個人の印鑑証明書の提出
12. 設立登記(本店所在地の管轄法務局)(会社法49条)
13. 銀行口座の開設、国税・地方税・社会保険に関する届出等

世界的にみると、このような日本の設立手続きは、必要な工数が多く、日数も長くかかることから、海外の設立手続きに比べて見劣りし、2019年10月24日公表の世界銀行のビジネス環境ランキング(Doing Business 2020)においても、法人設立分野において、日本はOECD加盟国36か国中30位と低い評価を受けています。

こうした中、政府は「未来投資戦略2017」(2017年6月閣議決定)において「法人設立に関し、利用者が全手続をオンライン・ワンストップで処理できるようにする」などとし、これを踏まえて、2017年9月には「法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会」(座長:大杉謙一教授)が設置され、同検討会での討議の結果を取り纏めた「法人設立手続のオンライン・ワンストップ化に向けて」(2018年5月)とする報告書が作成されました。

その報告書の中では、オンライン・ワンストップ化を妨げている要因として、①株式会社の設立手続きの一部に「面前」や「書面」での手続きが残っていること、②登記申請や国税・地方税・社会保険に関する届出など手続ごとに窓口が異なり、それぞれ個別に手続が必要となること、を挙げています。そのうえで、現行の定款認証制度については、「オンラインで手続が完結せず、申請者に対して、出頭と面前確認を求め、手続のために、企業家の貴重な時間と資金を費やさせるものである」と批判し「抜本的な見直し」を求めていました(同報告書8頁)。

そして、その後の「未来投資戦略2018」(2018年6月15日閣議決定)では、「株式会社の設立手続に関し、一定の条件の下、本年度(注:2018年度)中にテレビ電話等による定款認証を可能」とすることとされ、これを受けて、昨年3月29日より、テレビ電話機能(映像及び音声の送受信により通話をする方法)を利用した定款認証手続が導入されました[2]

これは、公証人による「面前」での定款認証手続きを代替する制度として導入されたものでした。しかし、かかる制度は必要な添付書面の提出を含め全てオンラインで公証人に定款認証の嘱託(≒依頼)がされた場合にのみ利用可能であったところ、(添付書面のうち)とりわけ委任状に相当する電磁的記録について、委任者(発起人)の電子署名を付したうえでオンラインにて公証人に提出することは個人の電子署名が普及していない現状では難しく、利用が進んでいませんでした。

そこで、更に制度が改正され[3]、本年5月11日より委任状及び印鑑証明書が予め公証人に郵送される場合もテレビ電話機能を利用した定款認証手続が利用できるようになりました。

これにより、今後は公証人による「面前」での定款認証手続きに代わり、テレビ電話機能を利用した定款認証手続を実施する場面も増えてくるものと考えられます。

特に昨今の新型コロナウィルス感染症の拡大防止の観点から、人と人との接触を抑制するためにも、かかる制度の利用促進が望まれるところです[4]

そこで、本稿では、株式会社の設立手続き全体を概観したうえで、このテレビ電話機能(映像及び音声の送受信により通話をする方法)を利用した定款認証手続(以下「新制度」といいます。)について解説することにします。

第2 株式会社設立手続き全体の流れ

まず、新制度導入前の株式会社の設立手続きの流れを説明します。ここでは弁護士が依頼者の依頼を受けて株式会社設立手続きをサポートする場合を想定することにします。

1 スタート~定款認証

まず、依頼者は、弁護士が準備するチェックリストに従い、設立のために必要な商号、本店所在地、資本金額、機関構成等の基本的な事項を決定し(冒頭の表1.)、チェックリストに記入のうえで弁護士に提出します。次に、その記入事項に基づき、弁護士は①同一商号の調査(冒頭の表2.)、②定款を含む設立書類の準備、③設立される会社の代表印の発注を行います[5]

弁護士側で上記①~③の作業を行うのにあわせて、依頼者側では、④公証人による定款認証に必要な(定款以外の)以下の書類[6]及び実質的支配者となるべき者の申告に必要な根拠資料や本人特定事項資料(運転免許証等)並びに⑤設立登記申請の際の添付書類として必要な設立時役員の印鑑証明書や本人確認証明書を準備します(上記②~⑤は冒頭の表3.及び4.に対応)。

発起人が個人の場合 (i) 発起人から定款作成代理人への委任状(定款案を合綴し、発起人の実印で契印)

(ii)発起人の印鑑証明書(原本)

発起人が法人の場合 (i) 発起人から定款作成代理人への委任状(定款案を合綴し、発起人の代表印で契印)

(ii) 発起人の登記事項証明書(原本)

(iii) 発起人の代表印にかかる印鑑証明書(原本)

+

自認認証[7]の場合 嘱託人[8]の印鑑証明書(原本)と実印

又は

嘱託人の写真付の公的身分証明書(運転免許証等)と認印

代理自認[9]の場合 (i) 嘱託人から代理人への委任状(電子署名付与)

(ii) 代理人の写真付の公的身分証明書(運転免許証等)と認印

上記手続きの中で、弁護士は発起人に代わり電子定款を作成したうえで、定款認証に必要な他の上記④の書類とともに、公証人にファックス又はメールで送付し、公証人による事前チェックを受けることになります。そして、定款案が固まると弁護士は電子定款に電子署名し、それを公証人にオンライン送信します[10]。定款認証を受ける際には、確定した定款案と委任状を合綴して契印したものを公証役場に提出する必要があるため、発起人による捺印作業及び印鑑証明書等必要書類の送付にかかる期間を考慮して、公証人による定款認証を受けるために公証役場の予約を入れます[11]。そのうえで、定款の作成を発起人に代わって行った弁護士本人(自認認証の場合)又はその代理人(代理自認の場合)は、予約した日時に公証役場に出向いて「公証人の面前で」定款認証を受けることになります(冒頭の表5.)。

定款認証を受けた後、公証人から認証を受けた電子定款を保存した記録媒体(CD-ROM等)が公証役場にて物理的に交付されることになります。

2 定款認証~設立登記申請

上記手続きを経て定款認証が完了すると、弁護士が予め準備した設立書類に基づき、会社法に則った各種手続き(冒頭の表6.~10.のステップ)が実行され、設立登記申請を管轄法務局に行います(冒頭の表11.)。上記の手続きには通常数日を要しますが、発起人が1名の100%子会社を設立する場合であって資本金の送金が即座に可能である場合には、全てを1日で完了させ、同日中に設立登記申請まで行うことも珍しくありません。

スタートから設立登記申請に至るまでの手続き全体(冒頭の表1.~11.)を完了するまでの期間としては、概ね10日~2週間程度(発起人が外国籍又は外国法人の場合は+1週間程度)かかりますが、書類の準備状況、公証役場の繁忙度によっては更に日数を要する場合も少なくありません。

3 設立登記申請~登記~登記後

設立登記申請の際には、登記申請書(本体)とともに、定款認証を受けた定款その他の添付書類を添付し、設立される会社の代表印を押印した印鑑届書及び当該会社の代表者個人の印鑑証明書を法務局に提出する必要があります[12]。なお、設立登記申請はオンラインで行うこともでき、登記申請書(本体)や定款その他の添付書類はオンラインによるデータ送信が可能ですが[13]、印鑑届書及び会社代表者個人の印鑑証明書については「物理的な書面を別途法務局に持参又は送付」する必要があります[14]

そして、設立登記申請を受け、管轄法務局にて審査を行い、問題がなければ設立登記が完了し(冒頭の表12.)、設立登記をもって株式会社として成立し(会社法49条)、法人格を取得することになります[15]

法務局における処理期間については、2018年3月12日より、株式会社及び合同会社の設立登記にかかる優先処理の運用(ファストトラック化)が実施されており(「登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けたアクションプラン」に基づく会社の設立登記の優先処理について(通達)」(平成30年2月8日付法務省民商第19号))、従前7日程度かかっていた処理期間が原則3日以内に短縮されています。設立登記が完了すると、設立された株式会社は、銀行口座の開設や行政官庁への届出等設立の際に必要な手続きを実施することになります。設立登記後の手続きについては、後述するとおり、「マイナポータル」におけるオンライン・ワンストップサービスも提供されているところです。

第3 テレビ電話機能を利用した定款認証

定款の作成者(発起人又は弁護士・司法書士等の代理人)であり、公証人に定款認証を嘱託(≒依頼)する者を「嘱託人」と呼びますが、前述のとおり、株式会社を設立するにあたり、嘱託人は、公証人から定款の認証を受ける必要があります。そして、その認証は、書面(紙)の定款か電子定款かを問わず、新制度導入前は「公証人の面前」にて行う必要があり、実務上は、前述のとおり、嘱託人又はその代理人が、公証役場に出向き公証人の面前で定款認証を受けることになっていました。

しかし、定款認証を必ず公証人の「面前」で行わなければならない必要性は明らかではありませんでした。定款認証は、株式会社の設立に際して、定款が真正に作成され内容が適法であることを確保するために必要であると考えられていますが、面前によらずともかかる定款認証の趣旨は担保できるとも考えられるからです。

そこで、新制度の導入により、従前「面前」にて行っていた行為をいわゆる「テレビ電話」(映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法)によってすることができるようになり、更に、本年5月11日からは、添付書面の提出を含め全てオンラインで公証人に定款認証の嘱託(≒依頼)がされた場合に限らず、委任状及び印鑑証明書が予め公証人に郵送される場合も新制度を利用できるようになりました。

具体的には、「FaceHub」というテレビ電話ソフトを使用し、嘱託人において、PCの場合はGoogle Chromeブラウザを、スマートフォンの場合にはFaceHubアプリを事前にインストールします。そののうえで、嘱託人が認証時間に公証人から予めメール送信されるテレビ電話用のURLにアクセスすることにより公証人とのテレビ電話が開始され、認証手続きが実行されることになります。この際、嘱託人は、免許証等の写真付公的証明書を提示することが求められ、公証人は、かかる書類と嘱託人が映されたキャプチャ画面を保存します。なお、現状、復代理人によるテレビ電話機能を利用した定款認証は認められていないため、嘱託人本人が上記認証手続きに応対することが必要となります。

また、電子定款の認証の場合、従前は公証人が認証した電子定款を保存した記録媒体(CD-ROM等)を嘱託人又はその代理人に公証役場にて交付していましたが、現在は法務省オンライン申請システムにより嘱託人がこれを書き出せるようになっています[16]

これらの措置により、電子定款にかかる認証手続きは公証役場に出向くことなく(遠隔地であっても)全てオンラインで完了させることができることになりました。

第4 法人設立オンライン・ワンストップサービスの今後

前述のとおり、政府は「法人設立に関し、利用者が全手続をオンライン・ワンストップで処理できるようにする」方針であり、今回解説した新制度はその施策の一部に過ぎません。

他にも本年1月には、政府が開設した専用サイト「マイナポータル」において、マイナンバーカードを使うことにことにより設立後に必要となる各種行政手続きをオンライン・ワンストップでまとめて手続することが可能となっています。また、本年3月17日からは、一定の条件を満たすオンラインによる株式会社及び合同会社の設立登記の申請について、法務局は申請から「24時間以内処理」を行う運用を開始しています[17]

更に、昨年6月21日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」においては「2021年2月目途で、定款認証及び設立登記を含めた全手続のワンストップ化、設立登記における印鑑届出の任意化、一定の条件の下で全国での定款認証及び設立登記のオンライン同時申請を対象にした24時間以内に設立登記が完了する取組及び完全オンライン化による添付書類のペーパーレス化を開始する」とされています[18]。このうち法務局への書面での持参又は郵送が求められている印鑑届書については、いわゆる令和元年改正会社法の施行に伴う整備法(以下「整備法」という。)[19]により、印鑑の届出義務を一律に定める商業登記法20条が削除され、オンラインによる登記の申請において「商業登記電子証明書」等により申請権限を確認できる一定の場合には、印鑑の届出を要しないものとされており、整備法の施行により印鑑届出の任意化が図られる予定です[20]

この法人の設立手続きを「オンライン・ワンストップ化」する流れは、新型コロナウィルス感染症の拡大を防止する意義とも相俟って、更に推進されることが想定されることから、それを前提とした新しい設立実務に柔軟迅速に適応していくことが求められることになると考えられます。

 

[1] 利用件数の多い発起設立(設立に際して発起人のみが株式を引き受ける設立方法)を想定しています。

[2] 指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部を改正する省令(平成31年法務省令第4号)(2019年3月5日公布、同年3月29日施行)

[3] 指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部を改正する省令(令和2年法務省令第36号)(以下「改正省令」といいます。)

[4] 改正省令は当初本年7月に施行されることが予定されていましたが、新型コロナウィルス感染症にかかる緊急事態宣言が発令されたことを踏まえ、施行日が本年5月11日に前倒しされました。

[5] 定款は、発起人(依頼者)の名義で作成する場合と発起人を代理して弁護士の名義で作成する場合があり、書面(紙)の定款として作成する場合は前者、電子定款として作成する場合は後者の例が多いですが、ここでは発起人を代理して弁護士の名義で電子定款を作成する場合を想定することにします。

[6] 定款認証の費用として、定款認証手数料5万円、謄本代約2000円がかかります。加えて、紙の定款として作成する場合は印紙税として4万円が必要になります(電子定款の場合は不要)。

[7] 嘱託人本人が公証役場で定款に付した電子署名を自認することをいいます。

[8] 定款の作成者であり公証人に定款認証を嘱託(≒依頼)する者のことを指し、ここでは定款作成代理人となる弁護士になります。

[9] 嘱託人の代理人が公証役場で定款に付した電子署名が嘱託人本人のものであることを自認することをいいます。

[10] 法務省オンライン申請システムを経由して送信されます。

[11] 公証に際しては、新しく導入された実質的支配者等の審査手続きが必要になりますので、場合によっては、審査期間が延びることも想定されます。

[12] 弁護士が設立される会社を代理して登記申請する場合には、設立される会社の代表印を押印した登記委任状が別途必要になります。

[13] この点、書面(紙)で設立登記申請する場合における登記申請書及び資本金の払込を証する書面には、代表取締役個人の印ではなく設立会社の代表印が押印されるところ、設立申請時点において登記所が発行する設立会社の代表者に関する電子証明書を取得することはできないため、当該申請情報及び添付書面情報に必要な電子署名を付与することができず、設立登記をオンラインで申請することはできないようにも思われます。しかし、東京法務局に照会したところ、オンラインによる設立登記申請の場合には、当該情報に付与する電子署名は、登記所が発行する設立する会社の代表者に関する電子証明書ではなく、地方公共団体情報システム機構が発行する代表取締役個人の電子証明書で足りる旨の回答を得ています。

[14] 実際は、会社設立にあたって、発起人や設立時取締役等の電子署名の付与を受けることは稀であるため、印鑑届書及び印鑑証明書に加えて、発起人同意書・決定書、設立時取締役の就任承諾書等の各種設立書類も書面で法務局に提出されているのが実情です。

[15] ただし、設立年月日は設立登記申請日となります。

[16] 電子定款にかかる同一の情報(紙の定款謄本に相当するもの)や実質的支配者となるべき者に関する「申告受理及び認証証明書」は、定款認証後に公証人より郵送されます。

[17] 法務省「完全オンライン申請による法人設立登記の『24時間以内処理』を開始します」2020年2月28日(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00006.html)。ただし、後述する「印鑑提出の任意化」にかかる商業登記法第20条の削除等の改正が施行される前においては、印鑑届書が法務局に提出されるまで登記を完了することができないため、印鑑届書が登記所に到達した後に登記が完了するとされていることに留意が必要です。

[18] 成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日閣議決定)30頁

[19] 会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(法律第71号)

[20] 整備法は公布の日(令和元年12月11日)から起算して1年3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることとされています(整備法附則2号)。


この記事に関するお問い合わせ、ご照会は以下の連絡先までご連絡ください。

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この記事に記載されている情報は、依頼者及び関係当事者のための一般的な情報として作成されたものであり、教養及び参考情報の提供のみを目的とします。いかなる場合も当該情報について法律アドバイスとして依拠し又はそのように解釈されないよう、また、個別な事実関係に基づく日本法または現地法弁護士の具体的な法律アドバイスなしに行為されないようご留意下さい。

 

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