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2020-11-1 中国における新型コロナウイルスに関わる法律問題(5) ――最高人民法院の審判指針・その三――

M&P Legal Note 2020 No.11-1

中国における新型コロナウイルスに関わる法律問題(5)
――最高人民法院の審判指針・その三――

2020年8月31日
松田綜合法律事務所
中国弁護士 徐 瑞静

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はじめに

最高人民法院は、既に、法律に基づいて新型コロナウイルスに関わる民事事件の幾つかの問題を適切に審理するための指導意見を2回発表して、新型コロナウイルス予防・制御の常態化に対応し、復興を全面的に推進するため、司法上の保障を提供しています。それらの指導意見に加えて、2020年6月16日に発表された「法律に基づき適切に新型コロナウイルスに関わる民事事件を審理する若干問題に関する指導意見(三)」(以下、「意見(三)」という)は、主に、新型コロナウイルスの発生状況に関わる渉外商事・海事紛争等の事件を審理するための指針です。

1、「意見三」の概要

「意見三」は、凡そ、次のような内容にまとめられます。

(1)訴訟の当事者、証拠、時効と期間について

まず、最高人民法院の「意見(一)」の規定が精緻化されています。昨年改正された民事訴訟証拠の司法解釈の内容と結び付けて、新型コロナウイルスの影響を受けた当事者の身分証明書類と授権委託手続きの提出及び立証の期限延長の申請、域外文書についての公正証書の発行または関連証明手続き、答弁書の提出及び上訴の提起の延期申立て、外国裁判所による判決・裁定の承認及び執行の申立て、並びに仲裁判断の時効の中止等の諸問題について明らかにされています。

(2)法律の調査と適用について

新型コロナウイルスの影響を受けて、法律の適用問題は、主に不可抗力に関する規定及びそれに類似する規定の解釈に絞られています。「意見(一)」が中国法上における不可抗力の適用を明言していることに呼応して、「意見三」は、不可抗力に関する規則について、「意見一」に従った具体的な適用のあり方について明かにしています。また、域外法の適用については、当該域外法における不可抗力に類似する成文法規定または判例法の内容を正確に理解し、正確に適用すべきとして、特に、中国法上の不可抗力に関する規定に基づいて、域外法の類似規定を理解してはならないことが規定されています。さらに、「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(以下、「ウィーン売買条約」という)を始めとする国際条約の適用方法が規定され、これらの規定により、下級裁判所に域外法律、国際条約の適用ついて明確な指針が示されています。

(3)運送契約、渉外商事と海商事案件の法律適用問題について

新型コロナウイルスの影響が大きい運送契約、渉外商事と海商事案件について、当事者の権利義務の調整が審判の最も重要な点であることが指摘されるとともに、それらの事案における明確な指針を示す規定が設けられています。なお、この部分の規定は、「指導意見(一)」の規定の渉外海商事裁判の分野における具現化であると見られます。

(4)訴訟の優先的受理について

近時における裁判所AIの構築の成果を踏まえて、「意見(三)」は、新型コロナウイルスに関連する渉外海商事紛争等の一定の事件に対応して、それらの事件の審理について、積極的にオンライン訴訟を導入することとし、そのための規程と操作マニュアルを整備しています。なお、香港、マカオ特別行政区及び台湾地区における新型コロナウイルスに関する海商事紛争等の事件についても、人民法院が審理する場合には、「意見(三)」を参照して執行することができることが明確にされています。

2、社会的関心問題への最高人民法院の対応

最高人民法院は、「意見(三)」の公表後、記者会見において、特に社会的関心が寄せられている諸問題について、以下のように回答しています。

(1)新型コロナウイルスに関する事件へ国際条約を適用する際の注意点について

「意見(三)」の制定は、新型コロナウイルスの影響が顕著な国際貨物売買契約紛争事件へのウィーン売買条約の適用について、以下のように、具体的な意見を提示しました。まず、第一に、国連国際貿易法委員会の公式サイトに掲載されている同条約の締約状況を見て、何れの国が条約締結国であるかが確認できること、第二に、条約第4条の規定により、契約の効力及び売却された貨物の所有権に与える影響を調整することなく、これらについては、抵触法を通じて適用すべき法律を決定し、当該法律に基づいて認定すべきこと、第三に、条約第79条をめぐり、当事者が契約の一部または全部の責任の免除を主張する場合、規定された適用条件を厳守し、条約の目的及び趣旨が有する通常の意味に照らして、善意に解釈すべきこと、そして、第四に、「『国際物品売買契約に関する国際連合条約』の判例要約集」につき、それが条約の構成部分ではなく、審理の際における参考に止められるべきこと等の見解が示されています。

(2)貨物運送途中に新型コロナウイルスが発生した場合における運送ルートの変更や納期の遅延についての運送人の責任について

中国契約法第291条は、運送人が約定されたかまたは通常の運送ルートに従って貨物を約束の場所へ運送しなければならないことを規定しています。しかし、運送中に危険があった場合、運送手段、旅客または貨物の安全のため、運送人は通常の運送ルートを経ず、迂回することができます。例えば、運送途中に、新型コロナウイルスの症状が疑われる患者が発生した場合、その病院における確認や隔離措置のため、運送ルートを変更しても、運送人が当該状況を直ちに託送人に通知さえすれば、運送人は法的義務に違反しないことになります。運送ルートの変更には司法上の合理性が認められています。また、同様な状況の下に、運送人が貨物の荷揚げを遅延させた場合、運送人は、適時に託送人に通知する義務を履行すれば、遅延の責任を免除されることになります。

(3)寄港・出港の制限や隔離等の防疫制限措置に直面する運送業者の対応方法について

新型コロナウイルスの予防制御措置により、合理的な期間内に必要な船員、資材を配備できないため、船積み港ないし目的港に着けないとか、また、新型コロナウイルスの影響を受けた港への寄港やその後の出港ができなくなった場合のように、不可抗力またはその他の原因で契約を履行できない場合、運送人は、中国海商法第90条の規定により、契約を解除しても賠償責任を負いません。同様にして、運送人が予定の目的港で荷揚げできない場合、運送人は託送人と協議しなければならず、協議ができない場合には、明確な約定がある場合以外、運送人は、託送人または受取人の利益を十分に考慮し、貨物の保管について適切に手配し、通知義務を履行した後、目的港の近くの安全な港または場所に荷揚げする権利があります。さらに、船舶が港に到着した後、港の管理部門に特別な要求がない場合、港の経営企業は速やかに消毒して荷揚げしなければなりません。港の経営企業が無断で検疫隔離を理由に船舶の停泊期限を制限した場合には、船舶所有者または運送経営者は港の経営企業に賠償責任を請求することができます。

(4)輸送手段に障害が発生した場合の対処方法について

新型コロナウイルスの発生やその予防措置により、貨物が一時的に輸出入禁止となった場合、または、陸路運送が妨げられて、貨物が合理的な期間内に荷積み港に運送できない場合、託送人が中国海商法第90条の規定により海上貨物運送契約を解除しても賠償責任を負いません。また、陸路の運送が妨げられて、貨物が期限を超えてコンテナを占用する場合、荷主は、運送人と協議して滞留費用の引下げを要求することができます。協議が整わない場合、人民法院は実際状況を見極めて調整することになります。さらに、予約されていた運送手段がキャンセルされたり、スケジュールが変更された場合に、貨物運送代理企業が、直ちに航空便のキャンセルや変更について託送人に通知しないなど、誠実義務を果たしていないとき、託送人は貨物運送代理企業に対して相応の責任を要求することができます。

3、終わり

2020年、全国両会(全国人民代表大会・全国人民政治協商会議)は、中国が対外貿易の基本的な安定を促進し、外資を積極的に利用し、高品質に「一帯一路」の共同構築を推進し、貿易と投資の自由化と利便化を促進することをもって、より高いレベルの対外開放を推進することを改めて明らかにしました。

しかし、現在、諸国においては、国際貿易と投資が大幅に縮小し、経済のグローバル化が逆流に遭い、不安定性が著しく増加しています。習近平総書記は、「中国は歴史の正しい側に立ち、多国間主義と国際関係の民主化を堅持し、開放、協力、ウィンウィンの心で発展を図り、経済のグローバル化を揺ぎなく推進し、開放、包容、均衡、ウィンウィンの方向に発展させ、開放型世界経済の建設を推進していく」旨を言明しました。新型コロナウイルスに対する抵抗の過程では、特に公共製品が重要性を増しており、その確保のため、産業チェーン、サプライチェーンの安定を維持し、さらに開放を拡大し、貿易投資の自由化と利便化を推進することが必要とされています。「意見(三)」の意義は、まさしくに、そのような目標の実現のための法的環境を整備することにあるということができます。

 


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