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2019-8-1 パワハラの具体例を明記した指針が厚労省案から発表になりました

M&P Legal Note 2019 No.8-1

パワハラの具体例を明記した指針が厚労省案から発表になりました

2019年11月1日
松田綜合法律事務所
弁護士 柴田政樹

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1 はじめに

パワハラ防止義務が立法化されることについては、各メディアにおいて取り上げられており、ご存じの方も多いかと思います。具体的な法改正の内容としては、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が成立し(令和1年6月5日公布)、これにより労働施策総合推進法が改正されました(以下、「改正法」といいます。)。改正法においては、パワハラの定義が明記され、パワハラ防止のために使用者が雇用管理上必要な措置を講じること、及びこれを怠った場合には指導対象となることが規定されています。

厚生労働省は、改正法の内容を具体化するものとして、パワハラに「該当すると考えられる例」「該当しないと考えられる例」などを明記した「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」(以下、「指針案」といいます。)を作成[1]し、労働政策審議会に示しました(令和1年10月21日)。

これに対しては、労働弁護団より、抜本的修正を求める緊急声明が発表されております[2]。当該声明においては、指針案は、パワハラを助長しかねないものであり、「使用者の弁解カタログ」であるとの批判がなされています。

以下では、指針案の内容を簡単にご紹介します。

2 指針案の内容

(1) パワハラの定義の具体化

改正法では、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と規定されています(改正法第30条の2第1項)。

これにより、パワハラが、以下の通り定義されました。

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されるもの

指針案では、上記定義における解釈を以下の通りとし、パワハラのより具体的な判断基準を示しています。

①「優越的な関係を背景とした」言動 当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの。
②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動 社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないもの。
③「就業環境を害すること」 当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること。

※上記の判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」(同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者の多くが、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか)を基準とする

これに対し、労働弁護団は、上記①については、「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」は、これまでの裁判例上の解釈で認められるパワハラの範囲以上に限定するものであり、そもそも「優越的な関係」という文言自体を法文から削除すべきであると指摘しています。また、労働弁護団は、上記②については、「業務上必要かつ相当な範囲」についての判断に当たり、「個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要」とされていることについて、労働者の行動内容によっては指導・叱責がパワハラに該当しなくなるという誤解を与えるもので不適切であると指摘しています。

労働弁護団による指摘は、いずれもパワハラの該当範囲を狭めることになることを危惧してのものであり、労働者側の立場に立った意見として、当然に想定されるものといえます。

ただ、使用者側の立場に立った場合には、「訴えた者が勝つ」という事態を認めるべきではなく、どこかで線引きをすることは必要不可欠です。

上記②についていえば、例えば、医療機関のように、労働者のミスが患者の生命・身体を損なう可能性のある業種においては、労働者がミスを犯しながら、その問題点を認識していないような場合には、労働者に対してより厳しく指導や叱責をせざるを得ないケースも想定されます。このような場合には、労働者側の行動内容を、パワハラか否かの判断にあたって考慮して然るべきであり、この指針案の内容が不適切というものではないと考えます。裁判例においても、労働者が架空出来高の計上等の是正を指示されたにもかかわらず、1年以上に渡り是正がなされなかったことなどを踏まえて、「ある程度の厳しい改善指導をすることは,…上司らのなすべき正当な業務の範囲内にあるものというべき」と判断しており(高松高判平成21年4月23日)、指針案はこのような裁判例の判断手法を反映したものといえます。

(2) パワハラの具体的類型

パワハラについては、従来より6つの類型が示されていましたが、指針案では、より踏み込んで、パワハラに「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」が、表1の通り整理されました。

労働弁護団は、「該当しないと考えられる例」の記載が、「抽象的で、幅のある解釈が可能であるため、加害者・使用者による責任逃れの弁解に悪用される危険性が高」く、誤解や悪用を招きかねないため、そもそも「該当しないと考えられる例」の記載は削除すべきであると指摘しています。

パワハラ該当性の判断は、個別具体的な事情に大きく左右される面がありますので、パワハラに該当する例や該当しない例を例示しようとすれば、抽象的になってしまうことはやむを得ません。使用者側の目線で見ても、指針案における「該当しないと考えられる例」の記載は具体例として不十分な面があると感じます。

しかしながら、パワハラを巡っては、その該当性判断こそが一番難しい問題ですので、厚労省の指針として、パワハラの該当性について具体例を挙げることは極めて有益です。

そのため、「該当しないと考えられる例」の記載の適否ではなく、記載内容の適否の議論に注力すべきと考えます。

3 最後に

今後の労使の議論を踏まえ、最終的な指針がどのような内容で確定するかはわかりませんが、使用者として、パワハラ防止に向けた措置を講じることが求められることには変わりありません。パワハラ防止の指針が具体化されることは、労働者にとっては泣き寝入りをしてしまう事態を避けることができ、使用者にとっては注意指導や懲戒処分を行う基準を得ることになります。

そのため、労使双方にとって有益な指針となるよう、今後の労使協議が活発かつ適切に行われることを期待します。

 

[1] 指針案(https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000559314.pdf

[2] 令和1年10月21日付け「パワハラ助長の指針案の抜本的修正を求める緊急声明」(http://roudou-bengodan.org/topics/8622/

 

<参考>

松田綜合法律事務所の人事労務情報ブログ
https://labor-law.jp/

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