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2019-5-3 農業分野における外国人材の受入れ方法と留意点~入管法改正(2019年4月1日施行)を踏まえて~

M&P Legal Note 2019 No.5-3

農業分野における外国人材の受入れ方法と留意点~入管法改正(2019年4月1日施行)を踏まえて~

2019年7月10日
松田綜合法律事務所
弁護士 菅原清暁

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第1 はじめに

外国人労働者の受入れ拡大を目的として、「出入国管理及び難民認定法」[1]が改正されました(2019年4月1日施行、以下「改正入管法」といいます)。

改正入管法において、農業を含め人材不足が深刻な14業種(後述)で就労を認める新たな在留資格「特定技能」を導入され、5年間で最大約34万5000人の受入れを見込んでいます。
農業分野においても、この改正入管法による新たな外国人の受入れ制度の活用により、深刻な人手不足の解消が期待されます。
そこで、本稿では、この改正入管法に基づいて外国人を受け入れる場合の流れと留意点を説明致します。

第2 外国人受入れの現状

厚生労働者が2019年1月25日に発表した2018年10月末日現在の外国人雇用労働者数は、1,460,463人に及び、前年同期比でみると14.2%の増加になりました。この数値は、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高となっており、5年前と比べると約2倍に及びます。
外国人労働者を雇用する事業所数も216,348か所に拡大し、前年同期比11.2%の増加となり、この数値も平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高となっています(後掲図1参照)。
そして、外国人労働者受入れの新たなルールが設けられたため、今後も、外国人労働者の更なる増加が見込まれます。

(厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ)

国籍別では、中国が最も多く389,117人(外国人労働者数全体の26.6%)、次いで、ベトナム316,840人(同21.7%)、フィリピン164,006人(同11.2%)と続きます。対前年伸び率としては、ベトナム(前年同期比31.9%)、インドネシア(同21.7%)、ネパール(同18.0%)となっています(後掲図2参照)。

第3 外国人受入れの新たな仕組み

1 概要

前述のとおり、入管法の改正により人材不足が深刻な14業種において新たな在留資格「特定技能」を導入されました。すなわち、国家戦略特区(農業支援外国人受入事業)等の従前の制度に加えて、新たな外国人受入れ制度が創設されました。

新たに設けられた在留資格「特定技能」には2段階あり、一定の技能が必要な業務(特定技能1号)と熟練技能が必要な業務(特定技能2号)に分類されます。

特定技能1号は、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。

対象となる特定産業分野は、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、飲食料品製造業、外食業、漁業そして農業です。その他の特定技能1号のポイントは、次のとおりです。

〇 在留期間:1年、6か月又は4か月ごとに更新(通算上限5年)
〇 技能水準:試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除)
〇 日本語能力水準:試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除)
〇 家族の帯同:基本的に認めない
〇 受入れ機関又は登録支援機関による支援の対象

他方、特定技能2号は、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。もっとも、特定技能2号は、建設業、造船・舶用工業のみ受入れ可能とされている。

なお、各種制度の違いについては、後掲表1の比較表を参照してください。

2 外国人受入れの方法

農業分野において外国人を受け入れる方法は、次の3つのパターンがあります。

① 直接雇用パターン

このパターンは、農業者が受入れ機関として直接外国人を雇用する場合です。

農業者自身が雇用主(受入れ機関)となるため、農業者が受入れ機関としての要件(後述)を満たす必要があります。また、農業者自身が外国人と直接雇用契約を締結することになります。

② 派遣形態パターン

このパターンは、農協などが派遣事業者となり、派遣事業者から農業者へ外国人を派遣してもらう場合です。

③ 業務請負パターン

このパターンは、請負事業者(農協等)が外国人を雇用したうえで、農業者(組合員等)から請け負った農作業の業務に従事してもらう場合です。

この場合、農協等が地域内の複数の農業者から請け負った業務に外国人が従事することも可能ですが、作業の指揮命令は、雇用契約を結んだ農協等が行う必要があります。

第4 外国人受入れまでの流れ

外国人受入れまでの流れとしては、大きく次の3つのステップに分けることができます。

① 雇用契約の締結
② 支援計画の作成
③ 地方出入国在留管理局への書類提出

次に、それぞれのステップにおける手続概要及び留意点を説明します。

1 雇用契約の締結

外国人と雇用契約を締結する場合、業務内容、労働時間、賃金などの労働条件について、法令等で定められた基準[2]を満たす内容にする必要があります。主に留意を要する点は次のとおりです。

(業務内容)
主として、耕種農業全般の作業(栽培管理、農産物の集出荷、選別等)、畜産農業全般の作業(飼養管理、畜産物の集出荷、選別等)。ただし、必ず栽培管理又は飼養管理の業務が含まれている必要がある。
同じ農業者等の下で作業する日本人が普段から従事している関連業務(加工・運搬・販売の作業、冬場の除雪作業等)にも付随的に従事可能。

(労働時間)
現に雇用されている他の日本人労働者等と同じ内容にする。

(有給休暇)
外国人が一時帰国を希望した場合は、必要な有給休暇を取得させる旨を規定する。

(賃金)
同じ作業に従事する日本人労働者と同じ金額以上にする必要がある。

(健康状態)
健康状態その他生活状況を把握するのに必要な措置を講じる旨規定する。

(雇用契約終了時の処理)
雇用契約終了後の帰国費用を負担できない場合、旅費を負担するとともに、外国人がスムーズに出国できるよう必要な措置を講じる旨を規定する。

2 支援計画の作成

農業者が外国人を雇用する場合、主に以下の支援内容について、具体的にどのように行うかを定めた「支援計画」を事前に作成する必要があります。なお、外国人への支援は、農業者自身が行うほか、「登録支援機関」に委託することもできます。農業分野の登録支援機関としては、これまでに技能実習の管理団体などとして、外国人の受入れに関わっていた農協や法人協会など、地域の農業団体が考えられます。

〇 事前ガイダンス
〇 出入国する際の送迎
〇 住居確保・生活に必要な契約支援
〇 生活オリエンテーション
〇 公的手続等への同行
〇 日本語学習の機会の提供
〇 相談・苦情への対応
〇 日本人との交流促進
〇 転職支援[3]
〇 定期面談、行政への通報

3 地方出入国在留管理局への手続

外国人受入れにあたって、雇用主は、地方出入国在留管理局(地方入管)に必要な申請を行う必要があります。具体的には、外国人が日本国内に在留中の場合は在留資格変更の許可申請を、外国人が海外から来日する場合は在留資格認定証明書の交付申請を行うことになります。

そして、地方入管申請後、変更許可や証明書が交付された後、実際の受入れがスタートすることになります。

第5 外国人受入れ時の留意点

最後に、外国人を受け入れる場合には、不法就労させることのないよう十分注意する必要があります。
外国人は、入管法に基づく適切な在留資格を得ずに就労(不法就労)することは禁止されています。もし、事業者が外国人を不法就労させた場合、その外国人はもちろんのこと、不法就労をさせた事業主も処罰の対象とされます。
具体的には、不法就労させたり、不法就労をあっせんしたりした人は、不法就労助長罪として、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(又はその両方)に処せられます。
また、外国人を雇用する際に、当該外国人が不法就労者であることを知らなかったとしても、在留カード[4]を確認していないなどの過失がある場合には、処罰を免れません。
外国人を受け入れるにあたっては、在留カードを確認し、在留カードの番号が失効していないか、就労不可などの就労制限が設けられていないかなど確認をすることが重要です。

<参考>

図1

(出典:厚生労働省「外国人雇用の状況の届出状況」(2018年10月末現在)))

(出典:厚生労働省「外国人雇用の状況の届出状況」(2018年10月末現在)))

図2

(出典:厚生労働省「外国人雇用の状況の届出状況」(2018年10月末現在))

(出典:厚生労働省「外国人雇用の状況の届出状況」(2018年10月末現在))

表1
表1 外国人受入れ制度の比較

技能実習制度 国家戦略特区 特定技能制度
制度目的 技術・技能移転を通じた国際貢献 農業の成長産業化に必要な労働力の確保等による競争力強化 深刻な人手不足への対応
在留目的 実習目的 就労目的 就労目的
在留期間 最長5年

在留期間中原則帰国不可

通算3年

在留期間中帰国

通算5年

在留期間中帰国

従事可能な

業務の範囲

・耕種農業のうち

施設園芸、畑作・野菜、

果樹

・畜産農業のうち

養豚、養鶏、酪農

※農作業以外に農畜産物を使用した製造・加工の作業の実習も可能

・耕種農業全般

・畜産農業全般

※農作業以外に、農畜産物等を使用した製造・加工、運搬・陳列・販売の作業も可能(ただし、作業全体の半分以上が農作業であること)

・耕種農業全般

・畜産農業全般

※日本人が通常従事している関連農業(農畜産物の製造・加工、運搬、販売の作業、冬場の除雪作業等)に付随的に従事することも可能

技能水準 「農業支援活動を締結に行うために必要な知識・技能」※技能実習2号(3年)を修了した者又は農業先般についての試験に合格した者が該当 「受入れ分野でも相当程度の知識又は経験を必要とする技能」

※所管省庁が定める試験等で確認。ただし、技能実習2号(3年)を修了した者は免除

日本語能力

水準

農業支援活動を行うために必要な日本語能力

※技能実習2号(3年)を修了した者又は農業全般についての試験に合格した者

ある程度日常会話ができる、

生活に支障がない程度の

能力を有することを基本

※試験等により確認

※技能実習2号(3年)を修了した者は免除

外国労働者の

受入れ主体

実習実施者(農業者等)

※農協が受入れ主体となり、組合員から農作業を請け負って実習を実施することも可能

派遣事業者 ・農業者等

・派遣事業者(農協、農協出資法人、特区事業を実施している事業者等を想定)

 

[1] 出入国管理及び難民認定法とは、外国人の在留資格手続や難民の認定などを定めている法律です。

[2] 農業については、労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用されませんが、その他の規定は適用されます。また、労働基準法が適用されない労働時間・休憩・休日についても、外国人であることを理由に差別的な取扱いをすることは許されません。

[3] 人員整理など、受入れ側の都合による場合

[4] 在留カードは、企業等への勤務や日本人との婚姻などで、入管法上の在留資格をもって適法に我が国に中長期間滞在する外国人の方が所持するカードです。特別永住者の方を除き、在留カードを所持していない場合は、原則として就労することができません。


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