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2018-6-2 障害者差別解消法について

M&P Legal Note 2018 No.6-2

障害者差別解消法について

2018年7月25日
松田綜合法律事務所
弁護士 加藤拓

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第1 はじめに

2006年12月13日、国連総会において障害者権利条約が採択されたことを始まりとして、日本国内においても障害者の差別を禁止する法律が必要なのではないかという機運が盛り上がりました。このような流れを受けて2013年6月に制定されたのが障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」といいます。)であり、2016年4月1日から施行されております。

本稿では、障害者差別解消法を概説していきます。

第2 障害者差別解消法の概要

障害者差別解消法の目的は、「障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」(同法第1条)にあります。ここでいう「障害者」とは、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」のことをいい(同法第2条1号)、「社会的障壁」とは、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」をいうと定義づけられています(同項2号)。

そして、障害者差別解消法は、差別解消の推進につき、国や地方公共団体にとどまらず、国民や事業者の責務である旨規定しています(同法第3~5条)。また、この責務を果たすため、政府に対して基本指針(ガイドライン)を定めることを要求しており(同法第6条)、行政機関等や事業者が講ずべき差別解消のための措置に関する基本的な事項について明確化すること等を求めています(同法6条2項2・3号)。

さらに、障害者差別解消法は、主務大臣による事業者に対する報告徴収、助言、指導及び勧告を行うことを認めており(法12条)、これによって法の目的の実効性を確保しようとしています。

第3 行政機関や事業者のとるべき措置

障害者差別解消法が対象とする「差別」には、2つの類型が存在します。それは、「不当な差別的取扱い」(同法7条1項、8条1項)と「合理的配慮の不提供」です(同法7条2項、8条2項)。

まず、「不当な差別的取扱い」とは、「正当な理由なしに、障害または障害に関連する事由を理由として、障害者を排除し、その権利の行使を制限し、その権利を行使する際に条件をつけ、その他障害者に対する不利益な取扱いをすること」をいいます。具体的には、障害があることを理由として、健常者であれば断らないようなことについて断ったり、健常者に対しては付けないような条件を付けたりする場合です。

次に、「合理的配慮の不提供」とは、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないにもかかわらず、社会的障壁の除去の実施について、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じた必要かつ合理的な配慮をすること」をいいます。具体的には、段差のある店舗に来店した車イス利用者から、段差の上まで車イスを持ち上げて運んで欲しい旨頼まれた場合です。

障害者差別解消法に違反するかどうかを検討する際には、当該差別的行為がどちらの類型に該当するのかによって判断基準が異なるため、この2つの類型のどちらに該当するのかという区別は重要なものになってきます。上記定義からこれら2つの類型を明確に区別することは難しいとも思われますが、不当な差別的取扱いは、事業者が作為的に差別的行為を行ってしまっている場合のことを、合理的配慮の不提供とは、障害者からの求めがあるにもかかわらず事業者が不作為の状態のままでいる場合のことを指していると考えると分かりやすいかと思います。

そして、これら2つの類型の判断基準は下記のようになっています。

 

不当な差別的取扱いについて

原則 障害を理由に異なる取扱いをすることはできない。

例外 異なる取扱いをすることに正当な目的があり、やむを得ない手段である場合にはそのような取り扱いをすることも認められる。

特徴 例外事由が認められる場面は限定的であり、その根拠となる証拠が必要。

 

合理的配慮の不提供について

原則 障害者が配慮として求める事項を実施する。

例外 当該配慮を行うことが過重な負担にあたるのであれば、提供しないことも認められる。過重な負担にあたるかどうかの判断要素としては、①事務・事業への影響、②実現可能性、③費用・負担の程度、④事務・事業規模、⑤財政・財務状況、⑥人権侵害の程度を総合考慮する。

特徴 配慮の内容として個別性が強く(求められる内容は人によって様々である)、過重な負担であると判断した根拠となる証拠が必要。

このように、上記2つの類型は、原則的には差別をすることを禁止していることや、例外的に差別的行為をすることが認められるような場合であっても、その根拠となる証拠が必要であるということについては共通しています。その一方で、例外的に差別的取扱いが許される要件については、不当な差別的取扱いという類型の方が、基準として厳格なものが設定されています。これは、不当な差別的取扱いの類型の方が、事業者側が積極的に差別的な行為を行ってしまっているからです。

事業者としては、そもそも障害者に対する差別的行為を行ってしまっているのか、という観点から、差別的行為にあたるとして、上記2つのうちのどの類型にあたるのかということを検討する必要があることになります。

第4 おわりに

2020年に開催予定の東京オリンピックに向けて、障害者に対する差別を解消しようとする動きは今後も推進されていくものと考えられます。このような中で、東京都としては、都民及び事業者が障害者への理解を深め、障害者差別を解消するための取組みを進めることで、障害の有無によって分け隔てられることのない、共生社会・ダイバーシティの実現を目指すべく、事業者による「合理的配慮の提供」を義務化する条例の制定を検討しているようです。

「合理的配慮の提供」につき、努力義務を課しているに過ぎませんが、条例ではさらに法的義務にまで格上げしようとしており、今後どのような展開になるのかが注目されるところです。

 


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