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2017-8-3 オーナー(法人・個人)が必ず知っておくべきトラブル回避術(改正個人情報保護法編③)[全3回]

M&P Legal Note 2017 No.8-3

オーナー(法人・個人)が必ず知っておくべきトラブル回避術(改正個人情報保護法編③)[全3回]

2017 年9 月19 日 松田綜合法律事務所 弁護士 菅原清暁

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第1章 はじめに

本稿では、改正個人情報保護法編②に掲載した事例について、前稿の解説の続編として、個人情報を他の者に渡すときのルールと、個人情報を取得した者が負うべき責任の範囲について解説を致します。
本稿の解説をお読みになる際は、必ず、前項のトラブル事例および解説をご一読ください。

第2章 個人情報を他の者に渡すときのルール

個人情報法保護法上、あらかじめ本人の同意を得なければ個人データを第三者に提供してはいけません。
ところで、個人情報法保護法は、「個人データ」の第三者提供のみを規制しており、「個人情報」の第三者提供は規制しておりません。しかし、これは個人情報保護法上の規制を受けないというものに過ぎず、本人の意に反して個人情報が第三者に提供されれば、プライバシー権侵害などを理由に民事上の責任を問われることとなります。
本事例でいえば、診断書は「個人データ」ではなく、「個人情報」が記載されている書面に過ぎませんので、これを管理会社に提供したとしても個人情報保護法上の責任を問われることはありません。
また、本事例の場合、賃貸物件の管理を委託している管理会社に対して、合理的に必要な範囲内で情報共有をしたにすぎない以上、借主が明示的に管理会社に提供することを拒否していたなどの事情がなければ、プライバシー権侵害等を理由に民事上の責任を問われることもないと考えられます。
ところで、前記の通り、個人情報保護法上は、あらかじめ本人を得ずに個人データを第三者に提供することを禁止していますが、次の場合には、本人の同意を得る必要がないものとされています。これらについては、とても有用であるため必ず押さえておくべきポイントといえます。

(1) オプトアウト

あらかじめ次の事項を本人に通知、または本人が容易に知り得る状態に置くとともに個人情報保護委員会へ届出を行った場合は、本人の同意を得ることなく個人データを第三者に提供することができます。これをオプトアウトと言います。
なお、オプトアウトは、利用することができない場合もあるため留意が必要です。

  •  第三者提供を利用目的することとその対象項目
  • 第三者への提供の方法
  • 求めに応じて第三者提供を停止すること

(2)適用除外

ただし、以下の場合には、個人データを第三者に提供する場合であっても、例外的に、本人の同意を得る必要がありません。

  1. 法令に基づく場合
  2. 人の生命、身体または財産の保護のために必要が有る場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  3. 公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要があり、かつ、本人の同意を得ることが困難なとき
  4. 国の機関等に協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることで当該事務の遂行に支障を及ぼす場合

(参考)

・ 近隣に存在する暴力団関係者や不動産物件で自殺者がいることなど宅地建物取引業法47条「重要な事項」に該当する事項を告げることは、上記「法令に基づく場合」に該当する。
・ 「登記簿に記載された事項」として土地・建物の名義人や抵当権者等を宅地建物取引業法35条の重要事項として説明することは、上記「法令に基づく場合」に該当する。

② 「第三者」に該当しない場合個人情報保護法は、個人データを「第三者」に提供することを規制していますが、次の場合には、「第三者」に対する提供には該当しないため、そもそも「個人データを第三者に提供してはいけない」という法規制が適用されません。

〇 個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合
〇 合併そのほかの事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合
〇 特定のものと共同利用する場合で、次の事項について、あらかじめ本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置いてあるとき

・共同して利用される個人データの項目
・共同して利用する者の範囲
・利用する者の取得時の利用目的
・当該個人データの管理について責任を有する者の氏名又は名称

(参考)

・貸主が管理会社に借主の個人データを提供する行為は、管理委託契約に基づく行為ですので、「個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合」に該当する。
・建物所有者である旧賃主が、建物の売却に伴い、建物の買主である新賃主にテナントの情報を提供することは、「事業の承継に伴って個人データが提供される場合」に該当すると解し得る余地がある。

なお、個人情報保護法の改正により、第三者に対して個人情報を提供する場合には、情報を提供する者と受領する者の双方が、個人情報保護委員会[i]の規則に基づき、一定の事項を記録、保存しなければならなくなりましたので注意が必要です。

第3章 個人情報の管理するときのルール

本事例のように個人情報が紛失・流出してしまった場合、誰が責任を問われることになるのでしょうか。
この点、本事例では、管理会社が「診断書」を紛失している以上、当然に、管理会社は「診断書」を紛失したことについて金銭的な賠償を求められる可能性があります。
これに対して、貸主は「診断書」を直接紛失したわけではありません。しかし、貸主が個人情報を管理会社に委託する場合には、管理会社のもとでも個人情報が安全に管理されるように必要かつ適切な監督をしなければなりません。
したがって、本事例のような場合であっても、貸主が管理会社に対し必要かつ適切な監督を怠っていたと認められる場合には、管理会社が紛失した場合であっても、貸主も金銭的賠償を求められる場合があります。
この必要かつ適切な監督が行われていたか否かは、紛失・流出した個人情報の内容や委託する業務の規模や性質などを考慮の上総合的に判断されるため、明確な基準があるわけではありませんが、最低でも次のような事項には注意しておくべきでしょう。

① 受託会社を選ぶときの注意

不動産管理会社など個人情報の取扱いを委託する会社を選ぶとき、貸主は、個人情報保護法やガイドラインで求められている安全管理措置を整えている会社を選定すべきです。
社内の安全管理体制が整っていない会社が、貸主から受領した個人情報だけを特別に安全に取り扱うことは考えられません。
そこで、まずは、その会社のホームページに掲載されているプライバシーポリシーや、その会社が作成している個人情報の取扱いに関する書面などを確認し、個人情報保護法やガイドラインを遵守した適切な安全管理体制を整えているか確認すべきでしょう。

② 管理委託契約を締結するときの注意

契約締結の際は、受託会社の個人情報に関する安全管理体制を確認するとともに、管理業務委託契約において個人情報を安全に管理することに関する条項を盛り込み、不動産管理業者に、受領した個人情報を安全に管理する義務を法的に負ってもらうことが重要です。
不動産管理を委託するなど、個人情報の取扱いを委託する可能性のある契約を締結する場合には、必ずその契約書に、個人情報を安全 に管理することに関する条項が定められているか確認すべきでしょう。

第4章 最後に

本事例では、借主が、貸主(管理会社)の診断書の紛失を理由に滞納賃料の全額免除および引越費用の支払いを請求し続けたため、やむを得ず、貸主から借主に対して、建物明渡請求訴訟を提訴せざるを得なくなりました。これに対して、かかる裁判の中で、借主から貸主に対して、診断書の紛失を理由とする慰謝料請求が反訴[ii]として提起され、貸主と管理会社の個人情報の管理が杜撰であったことなどが指摘されました。最終的に、裁判所から勧められた和解において、借主が賃料を滞納していたこと自体は事実であったため当然に借主の建物明渡義務や滞納賃料支払義務は当然に認められたものの、他方で、診断書の紛失を理由に管理会社が一定の金銭的賠償をすることで、解決するに至りました。

貸主や管理会社は、不動産取引において、借主の氏名や住所にとどまらず、家族構成、勤務先、年収など多くの個人情報に触れることになります。このため、事業規模の大小にかかわらず、個人情報の紛失や漏洩が起きることのないように、個人情報の管理は徹底しておくべきでしょう。
仮に、個人情報が杜撰であるがゆえに、個人情報の漏えいや紛失を引き起こしてしまった場合には、その点について民事上の責任が追及されたとしても言い逃れはできません。
ややもすると優先順位が下がりがちなテーマではありますが、不動産オーナーの皆さんが、本稿をとおして、個人情報管理の重要性を再認識され、適切な個人情報管理体制を確立していただけると幸甚です。

 

[i]個人情報保護委員会は、内閣府の外局として、個人情報の保護に関する法律に基づき2016年1月1日に設置されました。個人情報の保護に関する基本方針の策定・推進や特定個人情報の管理・監督などの業務を行っている機関です。

[ii]反訴とは、ある訴訟手続で被告(訴えられた人)となっている者が、原告(訴えた人)となっている者に対して、同一の手続内で提起する訴えをいう。

 


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この記事に記載されている情報は、依頼者及び関係当事者のための一般的な情報として作成されたものであり、教養及び参考情報の提供のみを目的とします。いかなる場合も当該情報について法律アドバイスとして依拠し又はそのように解釈されないよう、また、個別な事実関係に基づく具体的な法律アドバイスなしに行為されないようご留意下さい。

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