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2017-7-1 保育施設におけるプール事故での 法的責任(前編)

M&P Legal Note 2017 No.7-1

保育施設におけるプール事故での法的責任(前編)

2017年8月31日 松田綜合法律事務所 弁護士 岩月 泰頼

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第1 はじめに

平成29年8月24日、さいたま市緑区内にある保育園において、園児(4歳児)がプールで溺れ、翌25日に死亡する事件が発生しました。
毎年夏になると、保育施設でのプールにおける死亡・重大事故の発生が後を絶ちません。保育施設でプール事故が発生した場合、法人だけでなく、保育士・主任保育士・施設長・法人役員において、様々な法的責任が発生し得ます。
本稿では、最近のプール事故の状況、さいたま市緑区内で発生したプール事故、さらに実際に裁判で争われている神奈川県大和市内の幼稚園で発生したプール事故などを前編・後編に分けて解説します。

第2 最近のプール事故

最近、保育施設での重大事故は必ず報道されますし、事故内容も調査されて公開されることも多く、これらの事件を精査することは、安全管理を考える上で非常に有用です。筆者において、公開されている自治体の調査報告書、判決及び報道を精査したところ、最近の保育施設で発生しているプール事故は以下のとおりでした。

発生日 施設 結果 被害年齢 水深
H23.7.11 幼稚園 死亡 3歳 20cm
H24.7.2 認可外 意識不明 2歳 70cm
H24.8.23 認可外 死亡 3歳 23.5cm
H25.7.2 幼稚園 死亡 4歳 30cm
H26.7.30 認可 死亡 4歳 23~25cm
H28.7.11 子ども園 意識不明 5歳 59~64cm
H29.8.24 認可 死亡 4歳 70~95cm

保育施設では、毎年コンスタントに重大なプール事故が発生しており、しかもわずか数十センチメールの水深で発生していることがわかると思います。

第3 さいたま市緑区の保育施設で発生したプール事故の概要

平成29年8月にさいたま市緑区の保育施設で発生したプール事故の概要は、報道発表されており以下のとおりです。
「保育園では、ブルーシートなどで作られた仮設式プールを使用しており、事故当日は、3~5歳の園児約20名がプールで遊んでいて、保育士2名が監視していた。水深は70~95cmで被害児のお腹くらいの深さであった。事故当日は、プールの使用最終日であり、後に保護者が来てプールの一部を解体する予定であったが、現場保育士2名の判断で園児をプール内に残したまま滑り台を片づけ始めた。園児が「あー」と声をあげたため保育士が確認すると、被害児がうつ伏せの状態で浮いていた。事故翌日、被害園児の死亡が確認された。」
報道によれば、すでに埼玉県警が業務上過失致死罪で捜査を開始しているようです。

第4 プール事故における法的責任

保育施設内のプールで死亡事故が発生した場合、法人と保育関係者に様々な法的責任が発生し得ます。

(1)刑事責任

まず、大きく問題となるのが、刑事責任である懲役刑・禁錮刑・罰金刑の定めのある業務上過失致死傷罪(刑法211 条1 項)です。この刑事責任の対象は自然人(人間)ですので、法人は処罰されません。
処罰されるか否かは、主に過失の有無、すなわち「注意義務違反」の有無で判断されます。直接プールを監視していた保育士については、監視義務(目を離さずに監視する注意義務)を怠ったか否かが問題とされ、監視義務違反と認められる場合には刑事責任を負います。さらに、直接プールを監視していた訳ではない施設長、さらには法人の役員についても、保育者を監督(指導教育及び安全管理体制構築)すべき監督義務を怠ったか否かが問題とされ、監督義務違反と認められる場合には刑事責任を負います。

(2)民事責任

保護者と保育委託契約を締結している法人については、①同契約に基づく「安全配慮義務不履行責任(民法415 条)」、②安全配慮義務違反による「不法行為責任(民法709 条)」及び③従業員の安全配慮義務違反による不法行為責任(民法709 条)を前提とする「使用者責任(民法715 条1 項)」に基づく損害賠償責任が問題となります。
また、保育従業者については、監視・監督義務違反による「不法行為責任(民法709 条)」に基づく損害賠償責任が問題となります。なお、施設長については、法人の使用者責任と同様に法人に代わって事業を監督する者として代理監督者責任(民法715 条2 項)が問われる場合があります。 いずれも金銭による損害賠償責任です。
民事責任を問われうる範囲は、一般に刑事責任のそれよりも広いと言われており、上記の監視義務及び監督義務の注意義務も幅広く課される傾向にあります。

第5 プール事故の特殊性等

(1)施設事故の特殊性

今回のさいたま市緑区の事案では、園長が記者会見を開いており、報道によれば、事故の原因について「子どもから目を離したことに尽きる」と説明しています。
しかし、複数人で複数人を預かる施設で起きる事故は、様々な要因(遠因)が時系列に沿って重なりながら発生するものであり、単純に保育士が監視を怠っていたことに原因があると断じられない点に大きな特殊性があります。
すなわち、プール事故においても、例えば以下のような原因が考えられ、これらが重なり合って発生したとも考えられるのです。

① 監視していた保育士が目を離した
② プールで遊んでいる園児数に比して少ない保育士を配置した
③ 保育士に対するプール監視の方法の教育・研修を怠った
④ 保育士に対するプール事故が起きた場合の事後対処の教育・研修を怠った
⑤ プール事故のマニュアル整備・周知を怠った

上記の原因のうち②~⑤は、担当職員の問題ではなく、園長などの管理者側の問題となります。
仮に、これらを原因として認められる場合、どの原因一つでも防げていれば事故を回避できた可能性があり、それぞれに責任があるということになります。つまり、上記①~⑤の不注意をした職員について、法的責任の有無が問題とされる可能性があるということになります。

(2)さいたま市緑区の事案

さいたま市緑区の事案では、刑事責任として、園長も含めて保育従事者らの業務上過失致死傷罪の成否が問題となります。警察により、それぞれの保育従事者の監視・監督義務違反の有無などを明らかにするための捜査が行われると考えられます。
また、民事責任では、法人については、法人自体の安全配慮義務違反(民法415 条・709 条)による賠償責任と使用者責任(民法715 条)が問題とされます。職員(園長も含め)については、監視・監督義務違反(民法709 条)が問題とされます。

民事責任は、今後、民事訴訟が提起されるか否かに依りますが、施設賠償保険等の任意保険により賠償されることも考えられます。

第6 おわりに

冒頭のプール事故一覧で説明したように、わずか数十センチの水深で園児が溺れることが明らかになっています。
プール事故一覧の担当職員らは、数十センチという水深で子供が溺れるわけがないという油断から、子どもたちから目を離してしまったことが推測されます。水深が低いからといって油断して水遊びの監視を怠ることがないよう十分注意する必要があります。特に経験の浅い職員の場合には、このような事実を知識として知らない方もいますので、普段から事故の知識を習得できるような安全管理研修を行うことが必須です。

前編では、プール事故の法的責任について概説しました。後編では、裁判で争われている神奈川県大和市の幼稚園で発生したプール事故の紹介をしたいと思います。


弊所では、保育関連事業に特化したリーガルサービスを提供しており、安全管理体制構築のためのお手伝いもさせていただいております。

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弁護士 岩月 泰頼

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この記事に記載されている情報は、依頼者及び関係当事者のための一般的な情報として作成されたものであり、教養及び参考情報の提供のみを目的とします。いかなる場合も当該情報について法律アドバイスとして依拠し又はそのように解釈されないよう、また、個別な事実関係に基づく具体的な法律アドバイスなしに行為されないようご留意下さい。

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