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2017-2-3 食品事業者の法務(1) ~異物混入と法的責任~

M&P Legal Note 2017 No.2-3

食品事業者の法務(1)~異物混入と法的責任~

2017年2月28日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月 泰頼

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第1 はじめに

東京都福祉保健局が発表した平成26年度の苦情処理状況[1]をみると、消費者から寄せられた苦情全件数のうち17.7%を異物混入が占めており、食品事業者としては見過ごせない主要苦情の一つとなっています。
「異物」と言っても、その内容には様々な物があります。今年に入ってからでも、財団法人食品産業センターの食品事故情報[2]によれば、製造設備の一部が破損し金属繊維がドレッシングに混入した事例、製造ライン配管中に残存したフルーツ果汁の調合液が牛乳に混入した事例、チョコレートにカビのような異物が混入した事例、缶詰に虫が混入した事例など様々な異物混入事例が報道・公表されており、枚挙に暇がありません。
食品中の異物(Extraneous Materials)には、付着物、混入物、変質物、析出物[3]などが挙げられますが、場合によっては、原材料の混練が適当でなく分散不良が生じる場合や焦げ残る場合など、原材料自体が異物となることもあります。
こういった異物混入の原因は、仕入れ・製造・保管・流通過程での不適切な環境管理・取扱方法・製造方法などが挙げられ、様々な混入原因が考えられます。なお、異物混入のクレームの中には、消費者自身が原因となることも少なくなく、例えば、ハンバーガーに自身の歯科充填剤が混入した場合、嚥下できずに口腔内に残っていた錠剤が食べ物に混入した場合などあり、異物混入が発覚した経緯に十分な注意が必要です。
本稿では、このように異物が混入した食品を消費者が購入した場合、又は購入した消費者が当該食品を食べて健康被害が生じた場合に、どのような法的責任が生じるかについて概説します。
異物混入の事例では、その他、行政対応、レピュテーションリスク(SNS、マスコミなど)、消費者団体対応、証拠保全の方法(異物混入を発見した経緯、速やかな異物の確保と保存、異物の分析方法)、消費者への慰謝の措置などの重要な課題[4]が挙げられますが、これらについては別稿で取り上げたいと思います。

第2 問題となる関係法令

1 関係法令の概観

食品を製造・販売した場合の流通は、様々ではあるものの、一般的には、以下のとおりとなります。

消費者が購入した食品から異物が発見された場合、各業者間で様々な法的問題が生じますが、今回は「製造業者」に焦点を当てることとし、製造業者を取り巻く主要な法律関係は以下のとおりです。
まず、製造業者と行政(保健所)との関係では、厚生労働省の所管である食品衛生法6条が主に問題となります。
次に、製造業者と消費者との関係では、不法行為(民法709条)、特に製造物責任法(PL法)による賠償責任が直接的に問題となります。
また、製造業者と直接の売買契約を締結する卸業者との関係では、売買契約における債務不履行責任に基づく損害賠償(民法415条)及び契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償などが問題となります。
なお、消費者が小売業者に対して損害賠償請求をしてくる場合にも、上記の不法行為責任及び債務不履行責任が同様に問題となります。

2 食品衛生法

食品衛生法第6条のうち、異物混入に係る部分は以下のとおりです。

第6条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し…又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
一~三(略)
四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。

この点、食品衛生上の「異物」とは、「食品又は添加物以外のすべての物質」を指すと解釈されており、あらゆる異物ではなく、「人の健康を損なうおそれのあるもの」に限って販売等が禁止されています。
「人の健康を損なうおそれのある」か否かは、客観的に判断されることになりますが、「おそれのある」かどうかの判断が難しい場合も少なくなく、実務上は、どの程度の健康被害の発生リスクまで含まれるのか法的解釈が問題となります。
そして、違反行為に対しては、食品衛生法54条により、①廃棄命令及び②危害除去のための必要な処置(回収命令・改善命令など)が、同法55条により、③営業禁停止が、同法56条により、許可営業者について、④許可取消、⑤改善命令、⑥営業禁停止が行政処分として実施される場合があります。

3 製造物責任法(PL法)

製造物責任法3条は、以下のように規定されています(議論を絞るため、氏名等を表示した製造業者等は省略していますのでご留意ください。)。

第3条 製造業者等は、その製造、加工…した製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときには、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。

本条の賠償責任は、無過失責任を定めたものなので、故意又は過失の立証がなくても、その他の要件を満たせば製造業者等は責任を負います。
この点、「欠陥」とは、「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます(製造物責任法2条)。
製造物の欠陥には、①設計上の欠陥(設計段階から安全面で構造的な問題がある場合)、②製造上の欠陥、③指示・警告上の欠陥の3種類に分けられます。
特に食品では、②製造上の欠陥が問題となることが多く、例えば、製造過程において異物検査の網を潜り抜け、食品に鋭利な金属片が混入してしまい、これを食べた消費者が口内に怪我をした場合には、この製造上の欠陥があるとして賠償責任が生じうることになります。製造機器の摩耗・経年劣化により金属片が混入する事故は、異物混入事故の中でもかなり多い類型となっています。
また、今後、食品では、③指示・警告上の欠陥も問題とされる場合が増えることが予想されます。製造業者が安全確保上どうしても必要な事項を表示・警告書に書き漏らした場合、これは③指示・警告上の欠陥に該当することとなり、賠償責任を負う可能性があることには注意が必要です。
最近では、平成26年10月29日東京高判が、「製造物責任法第2条2項にいう「欠陥」には、設計上の欠陥及び製造上の欠陥のみならず、製造物の危険性の内容・程度及び被害発生を防止するための適切な運搬、保管方法等の取扱上の注意事項を適切に表示し、かつ警告することを怠る場合(表示・警告の欠陥)も含むということができる」と判断しています。
もっとも、そもそも製造上の欠陥がある製造物である場合に、いかなる表示や警告書を付したとしても、その欠陥がなくなるわけではないことにはご留意ください。

この点、上記②③が問題とされた事案として、平成24年11月30日東京地判があり、これは、牛肉入りサイコロステーキに混入したO-157による食中毒事件について、これを顧客に提供したステーキ店のフランチャイザーからサイコロステーキの製造会社に対する製造物責任法第3条に基づく損害賠償責任が棄却された事案でした。

この事案では、「牛肉の結着肉にO-157が混入していたとしても、加熱用食材として通常有すべき安全性を欠くものということはできず、製造物に製造上の欠陥があると認めることはできない」として上記②製造上の欠陥を否定した上、フランチャイザーは結着肉の危険性を把握しておくべき食肉に関する専門業者であり、「中心まで十分過熱してください」と記載された商品規格保証書が送付されていることから、上記③指示・警告上の欠陥もないと判断しているので、参考となります[5]

その他、表示義務が課されている特定原材料(小麦・卵などの7品目)によるコンタミネーション(原材料でないものが意図せずして混入すること)が生じた食品で、当該表示又はコンタミネーションの可能性の表示をしていなかった場合あるいは表示をしていた場合に、製造業者に製造物責任が生じるかという論点についても、同様の問題が生じますので十分な留意が必要です。

4 債務不履行責任・瑕疵担保責任

債務不履行における賠償責任(民法415条)は、当事者間での契約責任ですので、製造業者との関係では、直接の契約関係にない消費者との関係では問題とならず、直接取引をしている卸業者等との関係で問題となります(もちろん、消費者と直接契約している場合には債務不履行責任も問題となります。)。
製造業者が、故意又は過失により、卸業者に異物が混入した食品を供給することは、一般的には「債務の本旨に従った履行をしないとき」(民法415条)に該当すると思われ、債務不履行となることから、卸業者としては、製造業者に対し、瑕疵のない食品の供給のほかに損害賠償等の請求ができることになります(民法第415条)。
また、卸業者と製造業者との間の契約では瑕疵担保条項を定めることが通例であり、卸売業者は、製造業者に対し、異物が混入した食品には「瑕疵」[6]があるとして瑕疵担保責任に基づき、損害賠償等の請求もなしえます。
瑕疵担保責任による損害賠償では一般的に得べかりし利益(瑕疵のない物であったのであれば得られたであろう転売益など)まで請求できないことから、訴訟では、主位的に債務不履行責任を追及することが多いものの、債務不履行責任の追及には相手方の故意・過失の立証が不可欠であることから、当該立証の必要のない瑕疵担保責任を予備的に請求することになります。

第3 最後に

本稿では、健康被害を生じうる異物混入の事案を想定し、主に製造物責任に絞って解説をしました。
食品は、人が生命を維持する上で欠かせないものである一方、無防備な体内に取り込まざるを得ないことから、人は、食品の「安全」を強く求めます。特に、子どもの食べる食品ではそれが顕著に表われるのも当然といえます。
自分の食べ物を自分で採り、料理し、食べていた時代では、その安全を自分で確保できていましたが、現代のような、大量生産・大量消費の時代にあっては、いかに食の「安全」を確保すればいいのか、人々の大きな関心事となっています。
だからこそ、現代では、人々は、食の「安全」だけでなく、食の「安心」まで強く求めざるを得ないのだと思います。
ただし、客観的合理的ではない過剰な「安心」の追及は、製造業者の大きな負担となって経営を圧迫し、また社会問題となっている食品ロスに拍車を掛けかねず、冷静な議論が必要だと感じています。
このような、食の「安全」と「安心」のバランスについては、食品事故などにおける法律問題においても考慮しなければならない重要な視点のひとつでなければなりません。
この食の「安全」と「安心」の問題が先鋭化する一つの場面である、客観的な健康被害の生じない異物混入の事件について、また別稿で論じたいと思います。

 

[1] http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/foods_archives/violationComplaints/complaint/complaint_h26/index.html

[2] http://www.shokusan-kokuchi.jp/RecentList/

[3] 個体以外の状態にある物質が個体として表れた物質

[4] その他、髪の毛、加熱された虫などの客観的に安全な異物が混入した場合(いわゆる不快物の混入の場合)にも、法的問題が生じ、その対処は重要な課題となっています。

[5] 同種判例として東京地判H26.3.20があり、これは、消費者が薬局で購入した化粧品により顔に皮膚障害が生じたとして、製造元の製造物責任を求めて提訴した事件で、裁判所は、「化粧品のような医薬部外品や化粧品は、本来的にアレルギー反応を引き起こす危険性を内在したものである以上、当該製品を使用した消費者のなかにアレルギー反応による皮膚障害を発生する者がいたとしても、それだけでその製品が通常有すべき安全性を欠いているということはできない。」旨判示し、さらに、表示上の欠陥についても、「本件化粧品の添付文書には、使用法や使用量、その他使用及び取扱上の必要な注意の記載がなされているうえ、皮膚障害を起こす可能性やその場合の対処法も示されていることから、薬事法に違反しているとは認められず、表示上の欠陥も認められない」旨判示し、製造物責任を否定しました。

[6] 中国食品工場で製造された殺虫剤入り冷凍餃子により消費者が中毒被害を受けた事件において、同じ工場内で製造された冷凍食品(殺虫剤の混入はない)を転売していた業者が回収を余儀なくされたとして売主に損害賠償を請求した事件では、裁判所は、「食品は高度の安全性が要求され、例え殺虫剤の混入がなくとも、中毒事件公表後には、消費者は有毒物質の混入を疑い購入する者は皆無であったのだから、取引観念上、商品価値を有していなかった」旨判示し、瑕疵担保責任の「瑕疵」を認め、賠償責任を肯定しました(東京地判H22.12.22・大阪地判H22.7.1)。これは「瑕疵」概念に、客観的安全性だけでなく「安心」の観念も取り入れた重要な判例といえます。なお、同東京地判では、上記「瑕疵」はあるものの、客観的危険性がなく「欠陥」はないとして製造物責任を否定している点も留意が必要です。

 


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