M&P Legal Note 2016 No.6-2
企業主導型保育事業(事業所内保育)の活用(中編)
2016年11月1日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月 泰頼
第1 はじめに
前編で触れましたが、「企業主導型保育事業」は、市区町村の認可を必要としない認可外保育施設における事業所内保育事業なのですが、認可保育所と同水準の公的補助が受けられることから、女性に働きやすい職場環境を整えたい企業からの注目を受けています。認可保育所と企業主導型保育施設との簡単な比較は下表のとおりです。
認可保育所 | 企業主導型保育施設 | |
開設手続 | 市区町村で手続を行い、都道府県などが認可 | 都道府県に認可外保育の届出。児童育成協会に補助金の支給申請 |
保育士の割合 | 100% | 50%以上 |
自治体の指導 | 都道府県と市区町村が検査 | 都道府県が検査 |
第2 企業主導型保育事業での安全管理の問題点
現在、企業主導型保育のメリットのひとつは、十分な助成金が交付されながらも、認可保育開設のような行政による厳しい審査がなく、保育士の割合も50%以上で足りるなど設置し易い点が挙げられるのですが、他方、安全管理が疎かになっているとの批判もあるところです。すなわち、認可保育所の場合、開設時には市区町村と都道府県による2重審査を受けるのに対し、企業主導型保育の場合、児童育成協会に申請書類を提出して承認を受ければ、あとは都道府県に認可外保育の届け出をすれば足りてしまいます。また指導監査も、認可保育所の場合、都道府県と市区町村の両方に立ち入り検査権限がありますが、企業主導型保育の場合、都道府県にのみ立ち入り検査権限があるにとどまります。
内閣府での統計では、平成27年中における保育施設での死亡事故は14件発生しており、そのうち10件は事業所内保育施設を含む認可外保育施設で発生しています。直近でも、平成28年3月には、東京都中央区にあった認可外の事業所内保育施設において、うつ伏せに寝かされた1歳2か月の男児が心肺停止状態で発見され、その後死亡が確認されるという重大事故が発生しています。
内閣府子ども・子育て本部が公表した平成27年中の保育施設における重大事故の統計は以下のとおりです。
認定子ども園 | 認可保育所 | 小規模保育 | その他の認可外保育所 | |
SIDS | 0 | 0 | 0 | 2 |
窒息 | 1 | 0 | 0 | 0 |
病死 | 0 | 1 | 1 | 0 |
溺死 | 0 | 0 | 0 | 1 |
その他 | 0 | 1 | 0 | 7 |
合計 | 1 | 2 | 1 | 10 |
*「その他」は、原因が不明なもの等を分類統計上、認可保育施設に比較して認可外保育施設における死亡事故が多いことは明らかであり、その原因については、認可外保育施設において安全管理に係る基準が認可保育施設よりも緩和されてしまっている点が挙げられています。
このように認可外保育施設である企業主導型保育における安全管理への行政指導が厳しくないのは、あくまでも認可外保育施設であるが故ではあるのですが、言い方を変えれば、行政に代わって、保育所を設置する企業によって、認可保育所と同水準の安全管理が求められているといっていいと思います。
第3 企業主導型保育事業における安全管理の特色
企業主導型保育事業を実施する企業においては、それまで保育事業を運営したことがない企業の方が多いのが実際のところだと思います。企業主導型保育事業では、そのような企業も考慮し、企業主導型保育事業の設置企業から保育事業者への保育の委託もできる制度設計になっており、実際にそのような委託を考えている企業も多いです。
ここで大きな問題となるのは、このような保育の委託を前提とした企業主導型保育事業の場合で、保育施設内において重大な事故が起きた場合に、誰がその責任を負うのかという点です。言い換えれば、この責任を負うべき事業者が責任をもって安全管理体制を構築すべきですし、子供の安全を十分に確保することで初めて安心な保育サービスを提供できることになります。設置企業においても、同企業から保育を受託した保育事業者にとっても、これは非常に重要な問題となります。
後編では、企業主導型保育事業における保育事故の法的責任について解説したいと思います。
弊所では、保育関連事業に特化したリーガルサービスを提供しており、企業主導型保育事業(事業所内保育)のお手伝いもさせていただいております。
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